睡眠コンサルタントが実践する寝つきをよくする習慣とは?
睡眠の基本:眠気はいつもたらされるのか
体内時計
体内時計は生物に備わる機能で、私たちももちろん体内時計をもっています。わたしたちは時計遺伝子という遺伝子をもっており、体に対して約24時間周期の信号を発信しています。
深部体温と皮膚温度
深部体温とは、皮膚表面の温度に対する、臓器など体内部の温度のことをいいます。また、深部体温は脳温とも呼ばれています。
脳温は1日のなかで変化します。日中にかけてはだんだんと上昇し、夜間にかけては下降していきます。寝る3時間前ごろが最も高く、覚醒レベルも高い状態にあります。
眠気は脳温(深部体温)の下降にともなってもたらされるため、脳温が下がる速度を上手にコントロールすることができれば寝つきやすくなります。
体は睡眠の準備のために体から熱を拡散させることで脳温を調節します。赤ちゃんのおやすみ前、手足がポカポカと温かくなるのは手足から熱を逃がしているためです。
交感神経と副交感神経
交感神経と副交感神経の2つを自律神経とよび、24時間自動で身体機能をコントロールしてくれています。ふたつの神経のどちらに優位に働くかによって、わたしたちに活動と落ち着きをもたらしてくれます。
交感神経は活動や運動、緊張するときに活発化されます。交感神経のはたらきによって、心拍数・血圧の上昇、呼吸の促進が引き起こされます。
副交感神経は落ち着きと消化をするときに活発化されます。副交感神経のはたらきによって心拍数・血圧の低下、消化の促進、エネルギーの保存などの影響をもたらしてくれます。
睡眠においては、リラックスすることで副交感神経が優位に働き、睡眠に入りやすくなります。反対に、緊張して交感神経が優位に働いている状態では寝つきも悪くなり、睡眠の質も下がってしまいます。
自律神経が乱れるとさまざまな不調を引き起こされます。下記の記事もぜひ読んでみてください。
睡眠習慣と寝つきの関連性
概日リズム
私たちの体内時計は約24時間リズムを刻んでいて、体温やホルモン分泌などからだの基本的な機能は約24時間のリズムを示すことがわかっています。この約24時間周期のリズムを概日リズム(サーカディアンリズム)と呼んでいます。
1日のある時間になるとメラトニンとよばれる睡眠を促すホルモンが脳内で分泌されます。メラトニンはセロトニンというホルモンを原料にしてつくられます。セロトニンは太陽光を浴びて生成されるほか、食べ物に含まれるトリプトファンという必須アミノ酸を原料にしてつくられています。
地球の周期に同調して身体の機能は調節されていますが、概日リズムは地球の周期よりも15分〜1時間ほど長いとされています。このズレは、太陽光を浴びることで調節することができます。
太陽光を浴びることでメラトニンの原料であるセロトニンの生成が促され、夜にメラトニンが分泌されて睡眠を促してくれ、寝つきやすくなる、といった睡眠リズムを形成してくれます。
一般的に、深部体温と自律神経、概日リズムを寝具やエアコンなどで睡眠環境を整えたり、食習慣、起床時や就寝前の習慣的行動によりリズムを整えることで寝つきと睡眠の質を高めることができます。
適切な睡眠環境の整備
寝室の温度と照明
厚生労働省が提唱する睡眠指針12箇条によると、寝室で寝具や寝間着を使用した状況であれば、室温は、夏は高めで冬は低めとなるものの概ね13~29℃の範囲に収まるようにし、寝具の内部は33℃前後になるよう調整することが推奨されています。また、湿度については、40~60%程度が良いとされています。
室温については下記の記事をぜひ参照してみてください!
次に光については、夕方から夜にかけて室内の照明は暗くしていきましょう。照明は暖色系を使うようにし、寝る1時間前くらいには最低限の照明をつけるくらいにすると尚良いでしょう。
気をつけるべきなのは部屋の明かりだけでなく、ブルーライトの光を寝る直前まで浴び続けてしまうということ。ブルーライトはスマートフォンやパソコンなど電子機器から発せられる光で、太陽のように目に強い刺激を与えます。
朝や日中であれば問題ないのですが、夕方以降もブルーライトを浴び続けてしまうと睡眠を促すホルモンである、メラトニンの分泌が妨げられてしまいます。
適切な寝具の選び方
寝具は体系や好みに合わせたものを選ぶことが大切ですが、基本は寝姿勢が立っている時の自然な姿勢そのままを保てるようにすることです。自然な寝姿勢をつくる上では寝具の枕とマットレスがキーアイテムになります。また、これら2つのアイテムで自然な姿勢をつくるためには、硬さと厚み、品質の3点です。
別の記事で詳しく紹介しますので、ここでは枕選びとマットレス選びのチェックポイントをみていきましょう。
枕選びのポイント:自分に合う高さは思っているよりも低い
自然な寝姿勢をつくる上で、枕選びに必要なのはまずは高さです。普段使っている枕で以下のようなことはありませんか?当てはまる項目が多い場合は、自分に合わない高さの枕を使っている可能性があります。
- 仰向けで寝ると首にシワができる
- 横向きで寝ることが多い
- 朝起きると、首や肩がこっている
- 寝ているうちに、枕を外してしまっていることが多い
どの高さが自分に合っているかは、折り畳んだタオルをつかって首や肩に負担の少ない高さを探してみましょう。高さが大体わかったところで、店頭で実際に寝転がってみるなどして自分に合った枕を探すといいでしょう。
横向き寝、うつ伏せ寝をする人もいますので、全ての人に当てはまるわけではないので、仰向けで寝る場合を想定して自分に合った高さチェックを行ってみてください!
マットレス選びのポイント:硬すぎず・柔らかすぎずがいい
寝具メーカーでは快適な睡眠をサポートするように製品の開発が行われていますが、自身に合ったものでなければ肩や腰などに負担がかかってしまい、血行不良や腰痛につながることもあります。
マットレス選びでは、マットレスからの圧力(反発)を全身に均等に分散させる、体圧分散性が重要になります。
店頭でマットレスや枕を試していると、”かため”よりも”やわらかい”ものが好まれている印象を受けます。合っていれば問題ないのですが、柔らかいものの場合はお尻が沈んで猫背のような寝姿勢になってしまい、寝返りをするのにも力が必要になり体に負担がかかります。
女性や子どもの方で体重が軽め(55kg以下)の方は”やわらかい”、標準的な体重の方(55~70kgくらい)は”ふつう”のかたさが適しているとされています。がっちりした体型の(70kg以上)の方には”かため”の人気があるようです。
食事と睡眠関係
睡眠にいい食事
栄養バランスのとれた食事が健康にいい、ということは当たり前ですが、睡眠にいい食事があるとしたら何が睡眠に良いとするのか定義しておきます。ここでは、下記2点を睡眠に良い食事として紹介させていただきます。
- 消化がしやすい食事
- セロトニンの原料となるがトリプトファン摂取できる食材
睡眠にいい食事 ❶|消化がしやすい食事
寝る前に食事をするとよくない、というのは聞いたことがあるかもしれませんが、その理由は寝ている最中に消化活動が行われることで体に負担がかかり、睡眠の質を下げるとされています。
寝る2〜3時間前までには食事を終えていることが理想です。仕事などの都合により帰りが遅くなってしまう場合は、消化に優しいものがいいでしょう。できれば温かい料理がよく、魚や豆類、野菜類を煮る・ゆでたスープなどがおすすめです。食材を細かく刻んだ料理や、うどんやお粥、お茶漬けもいいでしょう。
睡眠にいい食事 ❷|トリプトファンが摂取できる食材
トリプトファンは体内では生成できない、必須アミノ酸のひとつで、セロトニンというホルモンの原料になります。セロトニンは「しあわせホルモン」とも呼ばれており、精神を安定させるはたらきがあります。
トリプトファンは日中はセロトニンに、夜にはメラトニンに変化します。メラトニンは睡眠を促すホルモンです。このトリプトファンが不足するとメラトニンの分泌が減り、睡眠の質低下を招くとされています。
トリプトファンが豊富に含まれる主な食品を以下に紹介します。
- 豆腐・納豆・味噌・しょうゆなどの大豆製品
- チーズ・牛乳・ヨーグルトなどの乳製品
- 米などの穀類
- ごま
- ピーナッツ
- 卵
- バナナ
私がこどものころ、眠れない時や夜眠る前にホットミルクをつくってもらったことがありましたが、ホットミルクは温かい飲み物によるリラックス効果とトリプトファンが豊富に含まれているため、良い睡眠にはピッタリな飲み物を出してくれていたといえます。
睡眠によくない食事
睡眠にいい食事で紹介したように、就寝直前の食事は控えるのが理想的です。どうしてもお腹が空いてしまったときは、カフェインや糖質の高いものは避けて、消化にも優しいものを選びましょう。以下にその例を紹介します。
就寝前にどうしても空腹な場合にいい食事
- ヨーグルト(プレーン)
- 味噌汁(インスタントでもOK)
適切な運動と睡眠
運動の習慣があるほうが不眠の人が少ないということが国内外の疫学研究によりわかっており、深く良い睡眠の維持に効果的とされています。適度な運動が深部体温を一時的に上昇させ、そこから深部体温が低下してくることで眠気がもたらされると考えられます。
また、適度な運動には消化を促進する効果もあるため、時間の余裕がある方は食後〜就寝の3時間前くらいに軽いウォーキングやストレッチをするといいでしょう。
ただし、激しい運動はかえって睡眠の質を低下させますので、注意が必要です。
ここで重要なのは、習慣的な運動がより効果的であり、1回だけの運動では効果が弱いという点です。
リラクゼーションテクニックと睡眠
入浴
入浴は寝つきをよくし、良質な睡眠をとるために手軽なことからおすすめ手段です。40℃くらいのお湯に10分〜20分ゆっくりとつかると深部体温が上昇し、その後深部体温が低下することで眠気が生じ、寝つきやすくなります。半身浴でも体が温まればOKです。
わたしはよく半分くらいに溜め、頭だけが出せるように蓋をしてサウナのようにしています。こうすることで半身浴でもしっかり温めることができ、汗もかくのでリラックスとデトックスもできて心身が整います。
入浴すればいいということではなく、就寝の1〜2時間前くらいに入浴することで寝つきやすさと質のいい睡眠をとりやすくなります。
- 深部体温を上げて、その後下がることで眠気が生じやすくなる
- リラックスすることで副交感神経や優位になり、良質な睡眠をとりやすくなる
ヨガ
ヨガはアーユルヴェーダ(インドの伝統医学)を同じ起源をもち、健康にいい習慣として世界的にも親しまれています。ヨガは柔軟性が大事なように思われがちですが、呼吸を意識するよう心がけましょう。
体が硬い人でも、身体を気持ちよく伸ばし、深い呼吸をすることリラックス効果がもたらされて副交感神経が優位に働き、質のいい睡眠を促してくれます。
激しめのポーズは就寝前には避け、自律神経を整えられる猫のポーズなどゆったりとしたポーズや前屈系の気持ちよく伸びるポーズ、肩や背中をほぐすポーズは疲れと凝り固まった体をほぐしてくれるのでおすすめです。
マインドフルネス(瞑想)
ヨガと同様に、世界で注目されているマインドフルネス。Googleでもセルフマネジメントと生産性を高める手法として行われており、書籍も販売されています。
マインドフルネスも深い呼吸をすることで副交感神経の働きを優位に導き、頭もスッキリさせることができます。
マインドフルネスをするときは、形にはこだわらず、リラックスできる姿勢で行ってOKです。たとえばソファに座りながら、ベッドの上、寝ながらでも構いません。いつでもどこでも取り組みやすいのもマインドフルネスの魅力の一つです。
話はそれますが、食事の際に話をせずに食べることに意識を集中することもマインドフルネスのひとつといえます。
スマホやPCのブルーライトと睡眠
スマートフォンやパソコンから発せられるブルーライトは、可視光線(目に見える光)のなかで最も紫外線に近い波長の短さをもっています。よく太陽を直視してはいけないといわれますが、ブルーライトも目に強い刺激を与えます。
ブルーライトは悪影響ばかりと思われがちですが、いい側面もあります。先述した概日リズムを整えるのに太陽光がいいという話をしましたが、この太陽光にもブルーライトが含まれているため、全く不要な光ということでもないのです。
就寝前にはスマートフォンやパソコンなど電子機器から発せられるブルーライトを浴び続けるのは控えましょう。太陽光に近い、強い刺激の光であるために、体内時計が狂い、寝つきが悪くなったり不眠を引き起こしかねません。
カフェインとアルコールの影響
就寝前のアルコールは寝つきにはよくとも、睡眠には悪影響
アルコールを寝酒に使用することで寝つきがよくなる、と考えている方もいるかもしれませんが、寝つきやすくはなるものの、睡眠の質が低下し、途中で目が覚めてしまうことがあります。
就床1時間前は少量のアルコールでも睡眠を浅くし、6時間以上前に飲んだアルコールも同様に睡眠に悪影響があるとされています。アルコールを嗜んでいる方は食事の際など晩酌程度に留めておくといいでしょう。
カフェイン
コーヒーなどに含まれるカフェインにより覚醒する、ということはよく知られているように、寝つきをよくするためには就寝前のカフェインは控えておきましょう。
カフェインの覚醒は3時間ほど持続するとされています。自身の寝つき具合をみながら、飲む場合はできれば夕方くらいまでにしておくとよいでしょう。
わたしもコーヒーは大好きですが、平日は日中の眠くなりやすい昼食後や休日の午前中の時間に飲むようにしています。ハーブティーやルイボスティーはノンカフェインのものが多いので、睡眠前にゆっくりと香りを楽しみながら飲むことでリラックスするといいでしょう。
カフェインを含む飲み物は以下のような飲み物です。
飲料100mlあたりに含まれるカフェイン
- エスプレッソコーヒー 212mg
- 玉露 160mg
- コーヒー 60mg
- モンスターエナジー 40mg
- レッドブル 30mg
- 紅茶(マサラチャイ) 30mg
- ウーロン茶 20mg
- 煎茶 20mg
- ほうじ茶 20mg
- 玄米茶 10mg
- コーラ 10mg
- 番茶 10mg
睡眠障害
睡眠障害にもいくつか主だった種類がありますが、ここでは不眠症について取り上げさせてもらいます。
不眠症の種類
不眠症にもいくつか種類があります。
- 入眠困難
…床についてもなかなか(30分~1時間以上)眠りにつけない。 - 中途覚醒
…いったん眠りについても、翌朝起床するまでの間、夜中に何度も目が覚める。 - 早朝覚醒
…希望する時刻、あるいは通常の2時間以上前に目が覚め、その後眠れない。 - 熟眠障害
…眠りが浅く、睡眠時間のわりに熟睡した感じが得られない。
睡眠コンサルタントによる対策
睡眠の悩みの原因は主に、環境・身体・心・生活習慣の4つがあげられます。私はまずは生活習慣と環境を整えることを意識してもらうことが重要だと考えています。この2つによって心身の健康が保つことができれば睡眠の悩みも改善される可能性が高いからです。
睡眠障害をはじめとした睡眠に関する悩みは、一般的に医者にかかるまでに長い時間を要することも多いのが現状です。悩みの相談にのり、相談者がどんな風になりたいのか、ウェルビーイングな人生を送るためにはどうしたらいいか、悩みを改善した先を見据えてサポートするのが私たちの役割だと考えています。
まとめ
以上、寝つきをよくする方法について睡眠のメカニズムから寝具選びのポイント、食事、リラックス方法を述べてきました。
あまりこだわりすぎるのもストレスになってしまいますので、気にしすぎずに可能なものから試してみることをオススメします。